採用ブランディングとは?得られる効果と注意点、具体的な手順を解説

昨今、大手ナビサイトへの求人掲載や合同説明会への出展といったスタイルから、新卒採用の手法は大きく変化してきています。

そんな中で「採用ブランディング」という言葉をよく耳にするようになったのではないでしょうか。。

採用ブランディングとは何か、そしてどんな効果があり、実現するにはどんなことが必要なのでしょうか。

今回はそちらを簡単にご説明いたします。

採用ブランディングとは

ブランディングとはそもそもマーケティング用語で「ブランドに対する共感や信頼などを通じて顧客にとっての価値を高めていく」ことを指します。ではブランドとは何でしょうか。ブランドとは「ユーザーが持っている共通のイメージ・実態のない価値」のことです。

ではこれを採用に当てはめて考えてみます。採用活動という観点で見ると目的は「自社にマッチする人材の採用と入社後活躍」です。これを実現するために「自社の強みや魅力を発信し、学生・求職者が魅力を感じて共感を覚えてもらう」こと。これが採用ブランディングです。

採用ブランディングを行うことで得られる5つの効果

では採用ブランディングはどのような効果があるのでしょうか。

採用ブランディングの効果としては

・母集団の量の増加

・母集団の質の向上

・社員離職率の低減

という効果があります。具体的に5つに分けてご説明していきます。

応募数が増加

新卒が何を重視して企業を選んでいるのかを見てみます。学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査結果(内閣府)を見ると、「就職先を決めるにあたって重視していること」という問に対して50%を超えている項目は、「企業等の安定性」「職場の雰囲気が良さそう」「自分のやりたい仕事ができる(やりがいがある)」となっています(2020年度調査)。ここから、どんな場所で働くのか、どんな仕事ができるのかがを重視して就職先を選んでいるといえます。対して、中小企業であったりBtoBビジネスがメインであまり一般消費者になじみがない商品・サービスの場合、そもそも企業のイメージがわかないということが起こり、応募者数の獲得に苦戦することに繋がります。

採用ブランディングを行うと、自社の魅力を明確に言語化できます。そのため「どんな会社」か「どのような働き方ができる」かが学生に正しく伝わります。

そのことで働くイメージを学生が持つことができ、応募数の増加につながります。 

参考:学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果報告書

自社にマッチした人材を獲得しやすい

数だけではなく「質」にも効果があります。

どのような考えの会社なのか、どんなタイプの人が活躍するのか、が正しく学生に伝わることで「自分がマッチする/しない」という判断を応募前に学生がすることが出来ます。

上記でお伝えした通り「雰囲気が良い」「自分のやりたいことができる」といったことで就職先を選ぶ学生が多い中、応募段階でセルフスクリーニングが効くため、「マッチする」と感じる学生の応募の獲得につながります。 

合他社との人材獲得競争に巻き込まれにくい

世の中に「唯一無二の事業」ということはとても稀です。

多くの場合、事業競合他社があり、新卒採用活動では事業競合ではなく採用競合となる企業もあります。

その中で自社の魅力を適切に伝えマッチする人材を獲得することが採用成功では不可欠です。ですが、その魅力の伝え方の抽象度が高かったり曖昧だと、学生にとって本当に自分にフィットするのか判断がつかなくなってしまいます。

自社の「採用ブランド」が確立されていると、数多ある競合の中で「何が特徴なのか」「どんな点を大切している会社なのか」が的確に学生に伝わります。そのため、他の企業との差が明確になり学生が自分に合うか合わないかを軸を持って判断することが出来るのです。

そのため「何で決めれば良いのかわからない」という学生側の問題を回避でき、結果的に競合他社との競争に巻き込まれにくくなります。

定着率向上による採用コストを低減

採用において大切なのが、採用後の定着率の向上です。

実際の若年層の定着率についてですが、新規学卒者の離職状況調査からも3年以内離職は3割程度を推移しています(厚生労働省)。その退職理由についても平成30年版子供:若者白書(厚生労働省)を見ると、1位は「仕事が自分に合わなかったため」、2位は「人間関係が良くなかったため」となっており、先の就職先を選ぶ観点とマッチしています。

そうなると、「会社に合わない」「想像と違う」といった理由での退職を削減することができ定着率の向上に結び付きます。

もちろん一定数の退職は発生するでしょうし、純増の採用も発生します。しかし、離職率を減少させることで退職に伴う採用が減りるため、採用コスト(費用/人事マンパワー双方)の削減を実現できるのです。

参考:学歴別就職後3年以内離職率の推移

参考:平成30年版 子供・若者白書(全体版)

認知度向上による社員のモチベーションアップ

社員のモチベーション向上は会社にとって重要なポイント。これを上げるための1つが内発的動機づけです。ハーズバーグの有名な二要因理論ですね。この内発的動機付けの中に「目標・方向性の明確化」があります。簡単に言うと自分たちが何者で何を目指しているのか、がはっきりすると人はやる気が出るということです。採用ブランディングをすることで外に対して「自分たちが何者か」を言語化して発信します。そのためそれが結果的に社員に対しても伝わりモチベーション向上につながるのです。もちろんこの効果は副次的なもので、しっかり効果を上げるためにはインターブランディングとの連携が大切になります。

採用ブランディングを行う上での注意点

ここまで採用ブランディングのメリットに触れてきました。

では実際に実行するにあたって注意することはどんなことでしょう。

大きく3つの注意点をご説明します。

長期的な取り組みが必要

「ブランディング」はどうしても時間がかかります。採用ブランディングという限定されたブランディングだったとしても、分析からメッセージ決定、発信まで複数のアクションが必要になります。またメッセージは1度言えば伝わるわけではないので、繰り返し色々な手法、場面で発信する必要があります。

「何年で結果が出る」というものではありませんが、少なくとも2~3年程度はかかると考え中長期的な観点で取り組むことが必要となります。

全社を挙げて取り組む必要がある

「採用ブランディング」はあくまで採用活動にフォーカスしたものですが、当然ながら「会社のイメージ」に直結します。そのため会社全体の方向性やブランディングと整合性が取れない・マッチしない内容となった場合、効果が出ずむしろ悪影響を及ぼしかねません。

経営層などを交えながら、自社の目的や方向性をしっかりと理解・言語化し、そこから採用ブランディングに落とし込んでいくことが必要となります。

会社の部署や発信する人の立場によって発信することが違う、ということは出来るだけ避けましょう。

消費者向けのブランディングとは異なる

商品・サービスのブランディングと採用ブランディングではターゲットと目的が異なります。商品・サービスのブランディングは、「顧客に対して購買/利用を促す」ことが目的となっています。ですが採用ブランディングにおいては「自社で勤務し成果を上げる人の獲得と活躍」が目的です。

特にB to Cビジネスの場合、企業イメージ=商品サービスのイメージとなってしまい、実際の仕事のイメージとは異なることがあります。

例えば旅行やアパレルの場合、「華やか」で「きれい」といったブランドイメージになることがあります。実際の仕事ももちろん繋がりはあるとは言え、旅行だからと毎日海外や観光地に行くわけではなく、オフィスで勤務となる方も多いでしょう。アパレルも工場へ行って交渉や調整、倉庫での検品などの業務をされることがあります。ですから「商品・サービスのブランド」ではなくあくまで「働く」ことにフォーカスをしたブランディングが大切となるのです。

採用ブランディングを行う手順

採用ブランディングの有用性をお伝えさせていただきましたが、具体的にどんな流れで採用ブランディングは進めていけば良いのでしょうか。

ここではその流れをお伝えさせていただきます。

Step1:自社分析を行う

まず自社の置かれている状況を分析し課題を発見することが大切です。

口コミサイトの確認や学生向けイベント開催でのアンケート/ヒアリングなども効果的です。

できる限り複数の就活サイトや就職活動の口コミサイトを確認し、良いことも悪いことも含めピックアップしていきましょう。また会社説明会を開催する際に、無記名アンケートを実施し「印象」をヒアリングしてみるのもよいでしょう。

この他にも現職社員へのアンケートを実施するケースもあります。この現職社員へのアンケートも効果はありますが「最終的に自社を選んでいる」人のみが対象となってしまうのでどうしても偏りが出るので注意が必要です。

Step2:自社のスタンスを明確にする

自社の現状を把握し、その上で会社の方向性や戦略を踏まえ自分たちがどのようにありたいのかを決めます。これが目指すもの、となります。

このフェーズは経営層や、会社のコーポレートブランディングやインナーブランディングを担う部門とともに共同で進めると良いでしょう。

会社全体の戦略に対する理解と目線合わせをしないと、戦略と採用ブランディングがちぐはぐになってしまうことが起こりえます。

Step3:誰をターゲットにするのかを決める

次に対象となる人のペルソナ設定します。この「採用ブランド」を伝え自社に入社し活躍してほしい方が誰かを明確にします。あえて「ターゲティング」ではなく「ペルソナ」としているのは、漠然とした「ターゲット」設定ではなく、どんな志向/価値観なのかなども含めたより具体的な「人格」設定をすることが大切だからです。

どんな環境でどんなことを考える人なのか、といったことまで深く言語化します。

ここをしっかり行うことでそれ以降のブランディング実務に影響し、結果的にブランディングの成功を左右しますので、極めて大切な項目です。

Step4:採用コンセプト及び採用計画を定める

上記を踏まえてどんなメッセージングをしていくのかを定めます。

まずはペルソナに基づき、ポイントとなる要素を抽出します。どんな軸で整理するのかは様々ですが、できれば①業界/自社事業軸=会社観点 ②業務軸=学生にとっての自分軸 ③社風・条件軸=①②を取り巻く環境観点 といった形で抽出・整理するとわかりやすくなるでしょう。

まずは箇条書きや一言のコメントで良いのでいくつか抽出します。

その上でそれらを組み合わせたり取捨選択したりして一つの文章にします。

人の記憶に残ることを踏まえて「わかりやすい」「覚えやすい」「イメージしやすい」といった要素を含んだ言葉にすることが大切です。

色々な要素を入れたくなりますが、本当に大切なことが伝わるようなメッセージにします。作成したメッセージは社内の採用ブランドプロジェクト以外の人にも確認しながら「想定しているペルソナとマッチしているか」を確認していきましょう。 

Step5:情報発信する媒体を選定する

ペルソナに基づいて、その人がどこにいるのか・何を使うとその人に届くのかということを考え手法や媒体選定を行います。

「すべての人に届く」必要はありません。あくまで「自社が対象と定めた人」に適切的確に届くように選定をしていくことが大切です。

一般的には新卒採用の求人広告媒体やSNSなどで発信することが多くなります。

Step6:自社社員に周知する

最後に自社社員に対して「採用ブランド」を発表し浸透させます。社員が外に出て多くの人と接する時に、しっかり「ブランド」を理解して対応することがブランド浸透の促進につながります。

この周知は一度発信したら伝わるというものではありません。繰り返し様々なシーン・手法で発信し続け理解を促すことが大切です。 

採用ブランディングを実践して求める人材を獲得しよう

いかがでしたでしょうか。

採用ブラディングについての情報はたくさんありますが、いざ取り組もうとすると何から着手すれば良いのか、どうすれば良いのかとなることもあると思います。

大切なのは

  • 現状を把握する
  • 事業戦略や会社の広報戦略と認識を合わせて設計する
  • ペルソナをしっかり設定する
  • ペルソナを踏まえた情報の発信を推進する
  • 社内への認知を継続する

という流れで進めていくことです。

一朝一夕で結果がでないものですが、中長期的な視点で見ると、自社の採用活動から従業員活躍迄大きな効果を上げるものなので、ぜひチャレンジをしてみてください。